インタビュー Vol.2

東京エレクトロン

Tokyo Electron

では、東京エレクトロンはこのプログラムでどんな役割を果たすのですか?

森嶋

このプログラムを立ち上げるときに、倫理を専門とされる直江清隆先生(オーガナイザーのひとり)から、「倫理」はいまビジネスの世界できわめて大きな関心事となっている、というお話を伺いました。

アメリカの半導体業界、IT産業界での動きを日常的に見ている私としてもそれは非常に納得できます。いまや倫理は企業価値を高めるために必要不可欠のもので、グローバル企業はみな、自社の事業が社会にどれだけ望ましい影響を与えているかをアピールしています。

私はそういう観点から、いま世界の情報通信産業がどんな動きをしているか、どこに関心をもってどんな技術開発をおこなっているか、といった生の最新情報を先生方に伝えることが役割の一つだと思っています。

山口

産業界の動向、半導体関連業界の情報やものの考え方に関する情報をワークショップやシンポジウムのテーマ策定などに生かしていただけたら嬉しいですね。

いま、ESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視した経営をおこなう持続可能性の高い企業への投資のこと)、は企業にとって非常に重要な存在です。ESG投資とはすなわち、人の幸せ(well-being)を追求する企業であるか、サステナビリティ志向をもっているかを問われるもの。TELも世界第三位の半導体製造装置メーカーとして、ESGを重視し、社会的な責任を積極的に果たすことに努めています。

社内の長期ビジョン策定チームでも、国連で合意された2030年の目標「SDGs」について情報を共有したり、議論をしています。まだ全社員に “SDGsマインド”が浸透しているわけではないので、さまざまな部署や現場からこのプログラムに参加した若手社員が、自分の部署で周りの人に影響を与えてくれたらとも思っています。

山口

実は、本テーマプログラムにおけるTELの役目は、全3年のプログラムの“先”にあると私は思っています。このプログラムでは、広い視野で技術と社会の関係を考えられる技術系の人間を育てるという「人材育成」も目的の一つです。TELとしてはなによりこの部分に貢献したい。そういう人が増えれば社会全体に対する貢献になりますし、それは当社のCSRとしての「成果」だと思っています。

3年のプログラムでできる人材育成には限りがあるので、
継続的な取り組みをバックアップしたい、と。

山口

はい。きっとこのプログラムで人材育成のためのさまざまなアイデアが出てくるでしょう。ただし、アイデアだけではあまり意味がありません。それを継続的に実行に移せるか否かが問われます。とはいえ継続も実行も資金・人員などのリソースを必要とするものですから、そこでTELが貢献できるだろうと思っています。

森嶋

いま、このテーマプログラムの中で「未来社会デザイン塾」という組織を立ち上げて、若手研究者と学生が継続的にこの議論や活動に参加する仕組みをつくろうとしていますよね。これが恒久的な組織になるといいですね。

山口

そのとおりです。ぜひ、全面的に支援したいと思っています。

知のフォーラムのテーマプログラムとして、一企業とこれだけ密接に連携するものはほぼ初めてだと聞いています。産学連携はよく謳われますが実際にはなかなか難しく、このプログラムのようにテーマが抽象的なものであればなおさら、いろいろな試行錯誤があると思います。この試行錯誤も、今後、知のフォーラムが産学連携をしていく際のノウハウとして役立てていただけたら嬉しいです。

森嶋

オーガナイザーの堀尾喜彦先生からは、東北の地元企業との連携も考えているという話が出ていました。

ええ、直江先生もこのプログラムのもとでおこなってきた集中講義をプログラム終了後も東北大学のカリキュラムとして定着させたいとおっしゃっていましたし、そうなれば毎年一社、新たな連携先と組むことも考えられますよね。そのためにもいま、TELを“実験台”にして、企業と研究機関がどう連携していけるかを探る材料を得てもらえたらと思います。

山口

それぞれに得るものがあり、社会に還元できるものを生み出せるプログラムにしていきたいですね。

[取材日] 2020.7.29