インタビュー Vol.4

菊地優志

Yushi Kikuchi
東北大学大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 博士課程前期1年

[掲載日] 2021.4.28

未来における技術と社会の関係を考える人材の育成を目指す本プログラムでは、学生や若手研究者による議論を重視しています。2019年に引き続き、2020年9月にも東北大学の学生と東京エレクトロンの社員がグループディスカッションをするワークショップを行いました。2019年と2020年のどちらも参加した菊地優志さんにお話を伺います。

菊地さんご自身について教えてください。東北大学工学部を卒業して、大学院では情報科学研究科に進まれたのですね。

菊地: 僕はいま修士課程の1年で、脳型コンピュータの研究室に所属しています。もともとロボット作りが好きで工学部に入ったのですが、これからは、「物」を作るだけでなく、「物」と「情報」をうまく一体化させていく技術が必要とされる社会になると思って情報科学研究科に進みました。

どうしてこの協働ワークショップに参加されたのですか?

菊地: 僕自身は技術屋的なマインドが強くて、「この面白い技術を使ったら世の中がどう変わるだろうか、どんなことが実現できるだろうか」という順序で物を考えてしまうたちなんです。でも本来、工学とは、世の中の課題を解決するためにどんな技術が必要かを考え、生み出す学問だと思うんです。

だから、自分ひとり、あるいは理系の研究室や学会の中だけではなく、企業の方や文系の人と、実際に社会に求められているものは何なのかを考える機会がほしいと思っていました。

菊地さんは2019年の試行ワークショップにも参加されたとのこと、2019年は合宿形式で2020年はオンライン開催でしたから、従来のNormalとNew Normalを比較する経験になりましたね。

2019年のワークショップは合宿形式。各グループの議論は紙の上にマジックで書き、グループごとに発表し、全員が互いの顔や表情を見ながら討論した。

菊地: みんなが一同に集まって議論した2019年と、画面越しに議論をした2020年では、やはり対面のほうが活発な議論がしやすかったですね。実際、他グループの発表の中にちょっと物議をかもす提案があったので、全体討論では僕もつい熱く議論をしてしまいました(笑)。

一方、2020年のようにZoom越しだと、どうしても「話している一人」対「聴いている人たち」という、講義やゼミのような構図になってしまうように思います。

2020年はオンライン開催だったため、紙への書き込みや口頭などの形態にしばられずに、各個人の意見や疑問が共有しやすかった。

ただ、オンラインではGoogle Classroomのような先生と学生の双方向の書き込みツールやオンラインホワイトボードのmiroを使って、個々人の意見や疑問を先生方やほかの参加者と共有したり、議論したりすることができました。2019年はグループ単位の発表だけだったので、その点は2020年のほうが充実していた印象があります。

今回のワークショップではどんなことを議論されたのですか。

菊地: 全体テーマが「新しい日常(New Normal)を人間中心でデザインする」というものだったので、僕たちのグループではまず、今のNew Normalと言われる生活において人間中心でないと感じることをピックアップしていきました。いくつか挙がったなかで「大学の授業が全面オンラインになると登校しないからキャンパスで友達と顔をあわせることもなくなる。それは物足りないよね」という話が出ました。

反対に、全部オンラインで満足している、という人もいました。そこで僕たちは、リアルを好む人とオンラインを好む人のどちらも満足できる形を技術で実現できないか、と考え、オンライン派の人はアバター(ロボット)でリアルの場に参加できるようにすればいいのではどちらも満足できるのではないか、というアイデアが出てきました。

反対の意見を持つ両者を満足させるには、という出発点がいいですね。ただ、リアル派の人にとっては、大学に行って目の前にいる友人が代理のロボットだったら、リアルで会っている実感は持てないのでは?

菊地: 代理のロボットをどこまで本人に寄せればリアル派の人が違和感なく接することができるかというのもこのアイデアの重要な論点ですよね。ARを使うなどといった技術的な問題と、使う側の心理的な問題と両方があると思います。

技術系の人間は、新技術への違和感を指摘されるとつい、「そんなの慣れれば気にならなくなるはず」などと言って使う人の問題に帰してしまう傾向があります。

たとえば、キャッシュレスが日本で進まない理由について、極端にいうと技術系の人間は「高齢者は新しい技術への適応力が低い」とか「日本人は旧弊な習慣にしがみつくから」と考える。つまり、技術はいいんだから、適応できない人が悪いんだ、と。

しかし、今回のワークショップのように文系の人がいると、その「背景」に目を向けようという視点が示されるんですよね。中国でキャッシュレスが普及した背景には、偽造通貨の問題や強い中央政府の存在がある。つまり、技術の普及を左右しているのは社会背景の違いなのではないか、という見方ができる。

僕がこのワークショップに参加したのは、社会のニーズや課題からどんな技術が必要かを考える発想を身につけたいということでしたから、技術普及の出発点を「社会」に置く、という文系の方の見方はすごく勉強になりました。

とはいえ、文系の人と理系の人では議論がかみあわないこともあったのではないでしょうか。

菊地: ありましたね。たとえば、どうやってオンライン派の人がうまくリアルの場に参加できるだろうかという議論をしているときに、文系の人が「でもロボットだとほんとにその人なのかわからないよね。信頼できない」と言う。

そこで理系の人間は「どうやったらいいロボットができるか考えようという議論なのに、ロボットそのもののネガティブな面ばかり言いたてても先に進まないだろう」と苛立たしく思う。グループ内で2つの意見がわりあい鋭く対立しました。

その後、話はどうなったのですか?

菊地: 理系的な「技術で問題を解決しようという意識」と、文系的な「その技術の問題点を見つける意識」の綱引きになりそうなところで、新たな考え方を見せてくれたのは東京エレクトロンの方でした。

技術者だって企業だって、新しい技術や製品を作ることはゴールじゃなくて、それを社会で使ってもらうことが最終目的。使ってもらいたいなら、社会の承認はどうしても必要だ。その技術に対して世の中の人が不安を感じるなら、技術を作る側は、どうしたら信頼される技術になるのかを考えなくてはいけないと思う、と言われたんです。

分野が違う人たちが集まって議論することの意味を実感しました。見ているものや重視するものが違うからこそ対立も起きるけれど、その対立が新たな視点を開くきっかけにもなるんだと。

一般の人々にも参加していただくイベント「市民カフェ」では、文系・理系・企業に加えて、より多様な視点で意見が聞けたのではないでしょうか。

菊地: 僕たちだけだとイメージするものが「登校」や「同級生」「授業」などに偏ってしまいますが、市民カフェでは、オンライン同窓会や発達障害の子を交えた集まりを企画された社会人の方から、オンラインならではのコミュニケーションや体験について具体的に聞くことができ、オンラインで置き換えられるものと置き換えられないものについてより広い視点で考えることができました。今後もこうした機会がもっと作れればと思っています。

[取材日] 2021.1.27

東北大学

菊地優志 (きくち・ゆうし)

東北大学大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 博士課程前期1年(取材日時点)

仙台市生まれ。東北大学工学部を経て大学院情報科学研究科に進学。電気通信研究所ソフトコンピューティング集積システム研究室(堀尾喜彦研究室)、東北大学人工知能エレクトロニクス卓越大学院プログラムに所属している。未来社会デザイン塾にも参加。

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