2022年12月19日

「航空機を安全かつ軽量にするための材料・技術に関するおはなし」を開催しました

去る2022年12月19日(月)、東北大学知の創出センター市民フォーラム「航空機を安全かつ軽量にするための材料・技術に関するおはなし」を開催しました。

近年の航空機は、燃費の向上かつ二酸化炭素排出量低減を目的に、軽量化が図られています。 その効果的な手法の一つとして、機体材料をこれまでのアルミニウム合金から炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に置き換える動きが精力的に進められています。 しかしながら、CFRPは金属に比べ、電気伝導度が低いため、機体に雷電流を受けた場合、これまで以上に大きな損傷が生じます。 現在は、金属メッシュを機体に貼り付け、このような損傷を防いでいます。 しかし、多くの時間とコストが問題となっています。 そこで、金属メッシュに替わる新しい技術として、コールドスプレー法と呼ばれるコーティング技術が注目を浴びています。 この手法は、数十ミクロンの粒子を溶融させることなく、高速でCFRPに衝突させコーティングを形成する技術です。 成膜時間も短く、特殊なスキルも必要としない技術ですが、金属粒子をCFRPのような異種材料に成膜することはこれまで困難でした。 本フォーラムでは、CFRPとは何か、どのような応用例があるのかといった材料の基礎の解説がなされました。 さらに、雷電流を防止するための金属成膜技術であるコールドスプレー法の基礎と応用、 さらに金属粒子をCFRP等の異種材料を成膜させる際の粒子の処理方法や処理後の航空機材料への適用例が説明されました。

東北大学大学院の小川教授からは「コールドスプレー法というコーティング技術」というテーマでご発表いただきました。冒頭、コールドスプレー法という技術についてわかりやすい紹介がありました。 一般的にコールドスプレーと聞くと、真っ先に思い浮かべるのが筋肉疲労をとるための瞬間冷却剤です。 今回のテーマであるコールドスプレーとは冷却剤のことではなく、粒子を溶かさないで皮膜を作る技術のことを指すことなどが紹介されました。 コールドスプレー法を用いたCFRP上への金属成膜の方法などを図解でわかりやすく説明いただきました。 また、コールドスプレー法による金属成膜は、金属メッシュを施したCFRPと同等の耐雷性を示す可能性があることが示唆されました。

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    小川 和洋 氏 (東北大学大学院 教授)

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    小山 真司 氏 (群馬大学 准教授)

群馬大学の小山准教授からは「クエン酸は金属の洗浄でも大活躍」というテーマでご講演いただきました。 冒頭、金属の接合法についてわかりやすくご説明いただきました。接合においては、表面の酸化被膜などが問題になることから、洗浄の必要があります。 10円玉をお酢に漬けておくときれいになるように、クエン酸は金属の洗浄で非常に重要な役割をしていると説明されました。最後に、金属シートを使用した航空機機材のろう付けについて説明がなされました。

東レ株式会社の成瀬恵寛様からは産業応用例について説明がありました。

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    成瀬 恵寛 氏 (東レ株式会社)

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    総合討論の様子

総合討論では、質疑応答を中心に活発な議論が展開されました。 今後、空飛ぶ車や人やモノを空を使って輸送する都市交通システムであるアーバン・エア・モビリティ(UAM:Urban air mobility)プロジェクトが進められてようとしています。 そのような空中を飛ぶ乗り物に欠かせない要素が、軽量化と耐雷性です。CFRPやコールドスプレー法という技術によって移動の新たな未来が創造できるかもしれません。 今回は、オンサイト・オンラインで多数の方にご参加いただきました。たくさんのご参加ありがとうございました。