2025年12月20 – 21日
ワークショップ「⾃然をさぐる研究と社会をむすぶには?〜南三陸で考える未来の牡蠣養殖」を開催しました
2025年12月20日 (土) と21日 (日) に、ワークショップ「⾃然をさぐる研究と社会をむすぶには?〜南三陸で考える未来の牡蠣養殖」南三陸・海のビジターセンター及びいりやどにて開催されました。本ワークショップは、変動海洋エコシステム高等研究所(WPI–AIMEC)主催、東北大学研究推進・支援機構知の創出センター、東北大学COI–NEXT ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点共催、一般社団法人サスティナビリティセンターの協力で開催されたものです。
宮城県南三陸町戸倉地区は、東日本大震災により壊滅的な被害を受けながらも、牡蠣養殖の在り方を根本から見直す「1/3の革命」を通じて、環境・経済・労働の三側面を同時に改善する持続可能な漁業モデルを構築してきました。過密養殖から脱却し、養殖筏の数をあえて3分の1に減らすという大胆な改革は、牡蠣の品質向上、収穫期間の短縮、災害リスクの低減、労働環境の改善をもたらし、日本初となるASC認証取得へと結実した。
本ワークショップは、こうした南三陸・戸倉地区の実践を題材に、現在進行形の牡蠣養殖の課題を正確に理解したうえで、将来にわたって牡蠣を食として持続的に享受し続けるためには何が必要かを、学生・研究者・現場の漁業者が共に考えることを目的として企画されました。

カキ処理について説明するサステナビリティセンター代表理事
太齋彰浩さん
カキ処理場の風景
本ワークショップは2日間にわたり、現地視察と講義、対話型のグループワークを組み合わせて実施されました。
初日は、戸倉漁港やカキ処理場、震災祈念公園の見学を通じて、震災の被害の大きさと、そこからの復興が単なる「元に戻す」過程ではなく、環境配慮型・持続可能型の地域社会への転換であったことを体感的に学びました。その後の情報提供セッションでは、漁業者(戸倉Sea Boys)による現場の実践知、中村隆志先生や近藤倫生先生など研究者による物理・化学・生態学的知見(海洋環境、CO₂と海洋酸性化、デジタルツイン、環境DNA等)が共有され、自然科学と社会実装の接点が多角的に提示されました。

後藤伸弥さんと後藤新太郎さん
(南三陸の漁師グループ戸倉Sea Boysメンバー)
サステナビリティセンター発行の、1/3革命及びASC認証について紹介する冊子

中村 隆志 先生
(東京科学大学 准教授)
近藤 倫生 先生
(東北大学WPI–AIMEC・ユニットリーダー/生命科学研究科 教授)
二日目は、これらのインプットを踏まえ、「10年後も日本で牡蠣を食べ続けられるために解決すべき課題」を軸に、分野や立場の異なる参加者がチームを組み、課題の構造化と解決策の検討を行いました。単なるアイデア出しに留まらず、「なぜ既存の施策が広がらないのか」「技術以外に何が障壁となっているのか」といった社会的・制度的要因にも議論が及び、各チームで解決策を練りだしました。

一ステークホルダーとして議論する参加者たち

盛り上がるディスカッション

グループ発表準備

討論の様子
本ワークショップが以下の点で大きな意義を持っています。
第一に、現場×学生×研究者の協働によって、高い学びの質を確保できました。
「現地はやはり面白い」「人生観が変わった」「実社会の課題解決には幅広い分野の知見が必要だと実感した」といった声が多く、抽象的な理論ではなく、具体的な現場を起点とした議論が、参加者の思考を大きく刺激したことがうかがえます。
第二に、研究と社会の関係性を再認識する機会となりました。
CO₂増加による海洋酸性化が牡蠣養殖に与える影響や、環境DNA分析を用いた資源管理の可能性など、最先端の研究成果が、地域の暮らしや産業とどのように結びついているのかが示されました。参加者からは、「研究が直接社会の安全性や持続可能性を支えていることを実感した」「自分の研究が現場で役立つ可能性を感じ、学習意欲が高まった」といった声が寄せられています。
第三に、技術だけでは解決できない課題に気づく契機となりました。
養殖技術や環境配慮型手法の導入には、地域内の人間関係や合意形成、利害調整といった社会的要素が不可欠であることが、参加者自身の言葉で語られています。これは、「1/3の革命」が単なる技術革新ではなく、コミュニティの意思決定の変革であったことを深く理解した結果だと言えます。

集合写真

集合写真
本ワークショップは、参加者が南三陸の牡蠣養殖を通して、自然環境・災害・産業・研究の関係を自らの問題として捉え直す機会となりました。知識の習得にとどまらず、環境変動や社会課題に対して主体的に考える姿勢を育む点で大きな教育的効果が見られました。
また、学生・研究者・漁業者が真剣に議論を交わしたこと自体が重要な成果であり、今後の教育・研究・地域連携プログラムの設計に有益な示唆を与えました。一方で、ステークホルダーのさらなる多様化や時間配分の改善など、次回に向けた課題も明確になりました。
今後も現地と連動した対話型の取り組みを継続することで、研究と社会を結び、持続可能な産業と地域社会の未来を担う人材育成につながることが期待されます。