2025年9月6日
2016年ノーベル化学賞受賞者特別講演会「小さな世界で働く分子マシン」を開催しました
2025年9月6日(土)14:00–16:30、東北大学知の創出センタージュニアリサーチプログラムのイベントとして市民公開講演会「小さな世界で働く分子マシン」が開催されました。本講演会は、東北大学大学院理学研究科、東北大学理学研究科化学専攻、東北大学統合化学国際共同大学院に共催いただき、国土交通省観光庁、公益財団法人仙台観光国際協会からのご協力のもと、国際会議ISMMF–2の一部として実施されました。
近年、たった1ナノメートル程度の大きさの機械として分子マシンが開発され、極小の車、細胞を操作するドリル、人工筋肉といった未来の技術を実現する化合物として研究が盛んに行われています。分子マシンは化学分野に留まらず、バイオや物理学、光技術といった多様な分野への応用が期待されています。特に、2016年にノーベル化学賞を受賞されたオランダ・フローニンゲン大学のフェリンガ先生の分子モーターに関する研究成果は、1990年代に行われた東北大学(原田宣之先生と甲村長利先生)との共同研究から生まれました。そのため、東北大学の化学、そして仙台の街はフェリンガ先生にとっても思い出の詰まった特別な場所です。本講演会でフェリンガ先生は、基礎科学の面白さとその重要性、化学が持つ無限の可能性、さらには科学が拓く未来の社会について力強くお話しいただき、若い参加者とも活発な議論を展開されました。
今回の講演会でははじめに、冨永悌二総長からご挨拶をいただきました。ご来場いただいた方々への歓迎の意を述べられ、国際卓越大学として東北大学が科学分野の発展を担っていくことを宣言されました。続いて、プログラムオーガナイザーである理学研究科化学専攻の豊田良順先生からイベントの趣旨説明と運営にご協力いただいた方々への感謝が伝えられました。本講演会は3年間以上の準備期間を経て多くの方々からのご協力をいただきながら実現することができました。

冨永 悌二 氏
(東北大学 総長)
豊田 良順 氏
(東北大学大学院理学研究科)
次に、人工分子モーターの開発を初めて行った甲村長利先生(NEDO)から分子マシン分野への導入となるご講演がありました。甲村先生は体内にも無数の分子マシンが存在して生命活動を維持していることに触れ、そのような小さな世界での動きを真似て人工的にもマシンを作れること、それが実現されてノーベル賞につながったことをご説明いただきました。そのメカニズムについてもかみ砕いてご説明いただき、光と熱を上手く組み合わせることによって一方向だけに回転する分子を実現できたことをお話しされました。この成果は甲村先生が東北大学での学生時代にフェリンガ先生との共同研究で始め、その後オランダでのポスドク時代に体系的にまとめられたものです。フローニンゲンで研究をされていた頃のお写真をご紹介いただきながら思い出話もしてくださいました。

甲村 長利 氏
(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
講演の様子
続いて、フェリンガ先生がご登壇されました。講演の冒頭で、飛行機やコンピュータ、コロナワクチンといった重要な発明には基礎研究が不可欠であることを力強く訴えられました。また、小さなモノづくりが可能な化学には、医薬品を作ったり機能性材料を開発したりと色んな場面で役立つこと、また、サステナブルな社会を維持していくためには化学的なリサイクルが重要であること、といった社会の重要課題を挙げながら将来の研究を担う学生や若手に向けてメッセージを発信していました。フェリンガ先生は動きを持った材料を作ることの重要性を説明した後に分子モーターのご研究についてご紹介いただきました。光エネルギーを機械的運動に変換することでマクロな物体を分子の力で動かすことができること、月のような回転も達成できること、分子モーターを輝かせること、動くプラスチックを作れること、細胞の活動を光でオン・オフできることといった魔法のような研究成果を次々とお話しになり、将来的には分子マシンで病気を治す分子手術の技術が発達するかもしれないという展望をお話しされていました。
幼少期や若手時代のお話や普段の研究室生活でのエピソード、身近な話題等を含めながらお話しいただき、終始会場全体から笑いや驚嘆の声が絶えませんでした。フェリンガ先生のパッションが参加者全員に伝わっているのが感じられました。講演の最後にはレオナルド・ダ・ヴィンチを引用したうえで、「想像できないものを想像することが大切です」というメッセージで講演を締めくくられました。

Ben L. Feringa 氏
(フローニンゲン大学)
講演の様子
お二人からのご講演の後には、オーガナイザーである豊田先生、福居直哉先生(東京理科大学)、ロマン モロド先生(CatSci)を交えてQ&Aセッションが開催され、時間内では受け付けきれないほど多くの質問が会場から投げかけられました。研究がうまくいかないときはどのように対処するのか、こんな化学反応ができたらすごいか、といった疑問や想像が学生たちからあり、会場が一体となって未来を描く活発な議論の時間となりました。

Q&Aセッションの様子

会場の様子
最後に、理学部化学科長の福村知昭先生からご案内があり、中高生からの質問を受け付けるブースが開設され、希望者には研究室見学の機会も設けられました。藤村由紀子様の司会や日英同時通訳にも助けられ、盛況のうちにイベントを終えることができました。

福村 知昭 氏
(東北大学理学部化学科)
司会 藤村 由紀子 氏
仙台市内だけでなく県外や海外からも300名を超える方々にご参加いただき、参加者アンケートではご回答いただいた方の約9割から「非常に満足」とのご意見をいただきました。その中では明るい未来社会を創るための多数のアイディアも寄せられました。参加者、講演者、関係者のそれぞれにとって充実した時間になったことと思います。ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。