2025年11月30日(日)

市民フォーラム「こころの未来、コミュニケーションの未来」を開催しました

 2025年11月30日(日)に、東北大学片平さくらホールにて、市民フォーラム「こころの未来、コミュニケーションの未来」が開催されました。東北大学では様々な脳神経科学系の研究開発プロジェクトが実施されており、このたび、東北大学知の創出センターとムーンショット目標9「多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発」、Kプログラム「ブレイン–ボディテックを実現する末梢計測デバイスと信号解析技術の開発」の共同主催で開催いたしました。

 人間は、他者とコミュニケーションを取り、社会に属し、その社会的相互作用を通じて自己実現を達成したいという根源的な欲求をもっています。この根源的欲求が満たされなかったり、自らを孤立した状態に置いたりすると、それが大きな要因となって、うつ病や適応障害など心身の機能にかかわる様々な障害が引き起こされます。近年、価値観や生活様式の急速な多様化により、何らかの形で社会の中で少数者となる人が増え、生きること・働くこと・学ぶことが困難だと感じる人が急増しており、人々をつなぎ、多様性を包摂する社会を形成することは、人類共通の喫緊の課題となっています。このような課題に、東北大学では、脳科学、分子生命科学、情報科学、ロボット工学などに基づく最先端技術を活用し、新たなコミュニケーションの形を確立することを目指しています。本市民フォーラムは、東北大学のこのような研究・開発の取り組みについて市民に理解と関心を得ることを目的として開催されました。

 市民フォーラムでは、冒頭に冨永悌二総長から開会挨拶がなされ、ご来場いただいた方々への歓迎の意と国際卓越研究大学として世界最高水準の研究大学を目指した取り組みが進められていることが述べられました。続いて、筒井健一郎プログラムマネージャー(以下PM)が取り組む多様なこころを橋渡しするブレインテック「自在ホンヤク機」の研究、細田千尋PMが取り組む健全な「親子」関係を支援する研究、佐々木拓哉PMが取り組む「脳・身体」からこころを理解する研究、山田真希子PMが取り組む「前向き」な気持ちを生み出すための脳研究について、それぞれのプロジェクトの紹介を行いました。質疑応答では市民の方から、筒井プロジェクトについて、こころを読み取ることの懸念点が寄せられ、その回避方法について議論する場面がありました。

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    冨永 悌二 氏
    (東北大学 総長)

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    筒井 健一郎 氏
    (東北大学大学院 生命科学研究科)

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    細田 千尋 氏
    (東北大学大学院 情報科学研究科・加齢医学研究所)

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    佐々木 拓哉 氏
    (東北大学大学院 薬学研究科)

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    山田 真希子 氏
    (量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所・東北大学大学院 医学系研究科)

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    会場の様子

 その後、最新の脳科学の成果を活用したコミュニケーション支援システムを開発している筒井健一郎教授のプロジェクトによる体験・映像展示が実施されました。これは、今年8月13日~18日に大阪・関西万博で実施したものと同様の企画内容でした。
 開発中の、こころの状態を「見える化」し、それに基づいてコミュニケーションを支援する技術について、体験していただきました。具体的には、2人または3人がセンサーデバイスを装着して席に着き、同じ音や振動を体験する間に、脳波などの生体信号を計測します。モニターには参加者のこころの状態が映し出され、他の人と体験や気持ちを「共有」した際に生体信号が「同期」する様子を体験することで、こころとコミュニケーションの未来を拓く研究開発の最先端に触れていただけたものと思います。参加者からは「体験を通じて脳科学に興味を得ることができた」という感想が多く寄せられました。

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    体験展示の様子

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    体験展示の様子

 プログラム終盤では、認知神経科学の分野で世界をリードする研究を進められ、山田プロジェクトにも参加しておられるカリフォルニア工科大学教授・下條信輔先生より、「人々は、気づかないうちに繋がっている~認知神経科学の知見から」と題して、特別講演をいただきました。本講演では、注意の極度の集中や時間感覚の変容を伴う「フロー」体験、とりわけ社会性の観点からの「チームフロー」に焦点を当て、十数年にわたる研究から得られた最新の知見が紹介されました。身体・脳活動の同期や協調過程の生物学的基盤、個人差や相性によるフロー体験の予測可能性など、人と人が「無意識に繋がる」メカニズムが多角的に解説され、大変興味深い内容となりました。

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    下條 信輔 氏
    (カリフォルニア工科大学)

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    講演の様子

 今回の市民フォーラムは、老若男女合わせて70名を超える方々のご参加を得て、盛況に開催することができました。たくさんのご参加ありがとうございました。